「…そういえば錠前って何だろう?鍵と違うの?」
「錠とか錠前とか、鍵とか、全部同じ意味だっけ?」
「錠前にはどんな種類があるのかな?」
などとリサーチしている方に、錠前の定義や歴史、種類をできるだけ簡単に、分かりやすくご案内しています。
錠前とは?簡単に言えば「錠(lock)と鍵(key)のセット」
錠前は英語で「lockset」です。
錠前とは、簡単に言えば①錠(lock)と②鍵(key)のセットのことです。
①錠(lock)=戸や扉などを開閉するために取り付けられた機構
②鍵(key)=錠を操作して開閉する道具
この2つのパーツで成立する金属部品や電子部品で構成された道具のことを錠前(lockset)といいます。
電子錠・電気錠などが登場していますが、この定義は変わりません。
錠前を構成する部品
錠(lock)を構成しているのは主に次の部品です。
部品名 | 概要 |
---|---|
フロント板(front) | 錠ケースの端にある板で、デッドボルトとラッチボルトが通る穴が開いている フロント板と扉をネジ止めすることで錠ケースが固定する |
デッドボルト(deadbolt) | 錠を施錠する閂(かんぬき)の役割をするボルトで、鍵やサムターンを使って操作する |
ラッチボルト(latch bolt) | 扉が勝手に開かないように枠に固定しているボルトで、ドアノブやレバーを操作することで動く |
玄関の内側にあるサムターン、外側にあるシリンダーも錠前の一部です。
部品名 | 概要 |
---|---|
サムターン(thumb turn) | 錠の開閉に使うつまみで、扉の室内側についている |
シリンダー(cylinder) | 扉の外側にある鍵を差し込む部品で、鍵穴と円筒状の内部で構成されている |
こちらは錠を構成する「錠ケース」という部品で、扉の内部にあります。
部品名 | 概要 |
---|---|
錠ケース(case lock) | シリンダーやデッドボルト、ラッチボルト、サムターンなどの錠を構成する部品を納めたケース 扉の中に納められているものは彫込型、室内側に取り付けられているものは面付型 |
「錠前とシリンダーの違いって何?」と思われる方がいるかもしれません。
錠前がシリンダーを含む施錠・解錠の機構の全体なのに対し、シリンダーはその一部のパーツという位置づけです。
鍵(key)には様々な種類があります。
こちらは玄関ドアの錠前用の鍵の種類です。
鍵の種類 | 概要 |
---|---|
ピンシリンダーキー | ギザギザが付いた鍵(一般的な鍵)。 |
ディンプルキー | くぼみのある鍵で、防犯性が高く、現在の主流 |
ウェーブキー | 波型の入った鍵で防犯性が高い |
マグネットキー | 磁力を使った鍵で防犯性が高い |
タグキー・リモコンキー・カードキーなど | 電子錠・電気錠用の電子的な鍵 |
防犯上の観点から、玄関ドアの錠前の鍵の主流は本体にくぼみ(ディンプル)があるディンプルキーです。
鍵は必ずしも錠と分かれているわけではありせん。
ダイヤル式の南京錠や暗証番号・指紋認証タイプの電子錠・電気錠など、鍵(key)と錠がセットの錠前もあります。
参考)鍵の種類一覧
錠前の歴史
錠前は紀元前から財産などを守るために使われていました。
諸説ありますが、紀元前4000年のアッシリア(メソポタミア文明)で木製の錠前が見つかり、紀元前2000年のエジプトで木製のエジプト錠に発展しました。
エジプト錠は、鍵にピンがあり、錠にピンを受ける穴を設けて、鍵を差し込むことで開閉する仕組みで、現在の主流のピンシリンダー錠の原型です。
その後、紀元前8世紀の古代ギリシアで、エジプト錠を発展させたパラノス錠が、紀元前753年の古代ローマでウォード錠のルーツの錠前が見つかっています。
日本には奈良時代(710年~)に、唐(当時の中国)から海老錠(えびじょう:蝦錠)が伝来しています。
イギリスで金属製の鍵(ウォード錠)が登場し、1700年代半ばの産業革命の頃に、アメリカで現代的なタンブラー錠が発展してから、急速に技術が高まり、現在のような小型で防犯性の高い錠前が生まれるようになりました。
現代では、カードやスマホ、指紋認証などで解錠できる錠前も増えてきています。
このような多様な錠前が登場した背景には、錠前破りという不正侵入があるからです。
特に1999年ごろにピッキングという錠前破りの被害が拡大してから、防犯への意識が高まり、不正開錠に対応した錠前が次々に登場しました。
参考)YKK ap「鍵とドアの歴史」、GIZMODO「錠前と鍵の歴史」
錠前の種類一覧【4カテゴリ・34種類】
紀元前の頃と違い、現代社会にはたくさんの種類の錠前があります。
今回は次のように大きく4つのカテゴリ・34種類に分けしました。
それぞれご案内していきます。
玄関扉向けの錠前(11)
玄関に使用される錠前は主に11種類あります。
錠前の種類 | 概要 |
---|---|
ケースロック | 箱型のケース内に機構が納められた錠前 |
面付箱錠(つらつけじょう) | 錠ケースを室内側に取り付けるタイプ |
電子錠・電気錠 | 電子錠は電池を動力として解錠・施錠をする錠前、電気錠は電気を動力として解錠・施錠をする錠前 |
電子錠・電気錠 | ピンを使用するシリンダー |
ディスクタンブラー錠 | ディスクを使用するシリンダー |
マグネットシリンダー錠 | 磁石を使用するシリンダー |
プッシュプル錠 | 押す/引くの一動作で開けられる錠前 |
サムラッチ錠(装飾錠) | つまみを親指で操作する錠前動作で開けられる錠前 |
引き戸用の錠前(3) | 戸先錠、戸襖錠、召し合わせ錠の3種類 |
1つずつご案内していきますね。
ケースロック
箱形のケースの中にデッドボルトやラッチボルトなどの錠の機構が納められている錠前です。
※ノブとシリンダー、サムターンは除く
箱錠とも言われ、物理的な破壊に強いです。
扉に埋め込んで設置する彫り込み型の箱錠をケースロックと呼ぶことが多いです。
画像引用)美和ロック 総合カタログ P148
面付箱錠
箱錠の中でも、錠ケースを扉の室内側に取り付ける錠前を面付箱錠といいます。
錠前が室内にあるため防犯性が高く、取り付けが簡単で交換しやすいため、集合住宅などでよく使われています。
画像引用)GOAL 総合カタログ P326
電子錠・電気錠
電気の力で解錠・施錠を行う錠前のうち、電池で給電するものを電子錠、電気配線をするものを電気錠と言います。
電気錠は水に弱いため、雨が当たる玄関の場合は電子錠が使われます。
リモコンキーやタグキー、カードキー、暗証番号、指紋認証、物理キーなどで開閉します。
・関連記事
ピンタンブラー錠
ピンを使って解錠・施錠をするタイプのシリンダーを採用している錠前です。
こちらの動画の説明にある通り、正しい鍵を差し込むことでピンが押し上げられ、位置が合うと鍵を回すことができるようになっています。
ピンの数が多く内部の構造が複雑なディンプルキーはピッキングに強いため、2000年代は主流となっています。
・関連記事
ディスクタンブラー錠
内部のディスクと呼ばれる板状のパーツを動かす仕組みのシリンダーを採用している錠前です。
以前のディスクタンブラー錠がピッキングに弱かったため、現在は防犯性が高いロータリーディスクシリンダー錠が使用されています。
・関連記事
画像引用)美和ロック 総合カタログ P51
マグネットシリンダー錠
シリンダー内と鍵にマグネットが使われており、磁石が反発する力を利用して解錠・施錠される錠前です。
経年劣化で磁力が落ちて作動しなくなることがあるため、今ではあまり使われていません。
画像引用)美和ロック 総合カタログ P274
プッシュプル錠
ドアハンドルを押す・引くの一動作のみでドアの開閉ができる錠前です。
ハンドルの押し・引きに連動してラッチボルトが動き、ハンドルはどの位置を触っても操作できるため、握力が弱い人や子どもでも楽に使えます。
シリンダーが1つのワンロック、2つのツーロックがありますが、防犯性の観点からツーロックのものが主流です。
・関連記事
サムラッチ錠(装飾錠)
ハンドルの上にあるつまみを親指で押すとラッチボルトが動く仕組みの錠前です。
装飾性が高いため「装飾錠」と呼ばれることもあります。
経年劣化でつまみがうまく動かなくなることがあるため、主流ではありません。
・関連記事
引き戸用の錠前(3)
引き戸用の錠前には戸先錠、戸襖錠、召し合わせ錠の3種類あります。
錠前の種類 | 概要 |
---|---|
戸先錠(とさきじょう)・戸先鎌錠 | 戸と枠を固定して施錠する錠前 |
戸襖錠(とぶすまじょう) | 和室の襖などに使われる錠前 |
召し合わせ錠 | 戸が重なる部分に取り付ける錠前 |
なお、東京都の平成28年(2016年)度の調査では、94.6%が開き戸で、5%が引き戸です。
鍵を使用しない錠前(7)
鍵以外の手段で解錠・施錠を行う錠前は主に7種類あります。
プライバシーの保護を目的に使われることが多いです。
錠前の種類 | 概要 |
---|---|
チューブラ錠 | ラッチボルトだけが付いているドアノブ |
内締錠(うちじまりじょう) | 内側からのみ解錠・施錠ができる錠前 |
両サムターン錠 | 内側にも外側にもサムターンがある錠前 |
間仕切錠 | 開閉状態を表示する窓が内側にある錠前 |
表示錠 | 開閉状態を表示する窓が外側にある錠前 |
ダイヤル錠 | ダイヤルを回して解錠・施錠をする錠前 |
時限錠 | 決まった時間にならないと開けられない錠前 |
用途が限定される錠前(10)
用途が限定される錠前は主に10種類あります。
例えばホテルロックは、使用する場所に合わせて設計された錠前です。
外締錠(そとしまりじょう)や両シリンダー錠は、構造が特殊なため用途が限定されます。
錠前の種類 | 概要 |
---|---|
ホテルロック | ホテルの客室などに使われる錠前で、外からは鍵で開閉、室内からは常に開閉ができる |
浴室錠 | 浴室向けの錠前で内側からサムターンやボタンなどで施錠する仕組み |
倉庫錠 | 倉庫向けの(主に後付けする)錠前、南京錠タイプが多い |
外締錠(そとしまりじょう) | 倉庫やガレージに使われる外側からのみ解錠・施錠ができる錠前 |
両シリンダー錠 | 介護施設などに採用されている内側にも外側にもシリンダーがある錠前 |
グレモン錠 | 部屋の密閉性を高める目的で防音室などに採用されているハンドルとロックが連動した錠前 |
本締錠(ほんじまりじょう) | 防犯目的で設置されるデッドボルトだけがある錠前で、補助錠として使われることが多い |
空錠 | ドアが風圧などで勝手に動かないように、ストッパーとして設置されるラッチボルトだけの錠前 |
インテグラル錠 | ドアノブに鍵穴、内側にはサムターンがある |
円筒錠(モノロック) | ドアノブに鍵穴、内側にはボタンがある |
扉(戸)以外に使用する錠前(6)
扉(戸)以外に使用する錠前は主に6種類あります。
例えば、インテリアなどの用途で、ウォード錠のような防犯性が低いが見た目が良い錠前が使われることがあります。
また自転車錠や南京錠などの、錠前自体を持ち運べるものもあります。
錠前の種類 | 概要 |
---|---|
ウォード錠 | 古代ローマ時代に原型が登場していた内部にウォード(障害)がある錠前で、家具などに使われる |
クレセント錠 | 窓の室内側などに用いられる錠前。三日月型をした金具を半回転させることで、解錠・施錠する。 |
レバータンブラー錠 | 錠ケース内に板状のタンブラーがある錠前で、棒鍵錠とも呼ばれる |
南京錠 | 様々な用途に使われる、持ち運んで使用できる手軽な錠前 |
自転車錠(バイシクルロック) | 自転車本体についているタイヤを固定する錠前や本体をケーブルなどで固定するケーブルロック、チェーンで固定するチェーンロック、金属製の頑丈なU字型のU字ロック、馬蹄錠がある |
TSAロック | TSA(米国運輸保安局)によって認可さたスーツケース用の鍵前 |
ここまでの説明で、ふと「錠前と南京錠の違いって何?」と思われる方もいるかもしれません。
南京錠(padlock)は錠(lock)部分に鍵穴(シリンダー)があり、鍵がセットのため錠前の一種です。
錠前と南京錠の最大の違いは、取り付ける場所を選べるかどうかです。
錠前は扉とセットですが、南京錠は持ち運んで任意の場所に取り付けられます。
錠前についてのまとめ
・錠前は錠(lock)と鍵(key)のセット
・錠前は紀元前から財産を守るために使われていた
・錠前は4カテゴリ・34種類ある
錠前の定義(key+lock=lockset)や歴史、種類についてご案内しました。
玄関の扉に使われる錠前だけでも主に11種類あり、様々な用途・機能があることがお分かりいただけたかと思います。
鍵のトラブルがあった場合は、錠なのか鍵なのかを分けて考えると、調べたり暮らしの119番のようなプロに依頼したりする際にスムーズです。
「錠前交換」というのは、ここまでにご案内した扉の施錠・解錠をする機構を丸ごと交換するという意味で、錠も鍵も含まれます。
シリンダー交換や錠ケース交換、サムターン交換、ハンドル・ノブ交換も錠前交換に含まれます。